2011年10月12日水曜日

イノベーションが生まれる数は人口の数に比例するという考え方

イノベーションが発生条件として、人口の数が決めているという前提で生み出されている方程式があるというものの紹介。かなり乱暴な議論だけど、100万年という大きなタイムスケールで理解する際には、使える考え方。
文中に出てくるトマス・マルサスは、人間の人口は幾何級数的に増加するが、食べ物は2倍3倍と算術数的にしか増加しないため、成長には限界があり、人口も算術数的にしか増加しないということを1798年に論じた有名な経済学者。どちらかというと、その後のピルの登場による人口抑制や、機械化や化学肥料等の登場によって食物の生産量の劇的な増加によって、増加する人口を補えてしまっていることを予測できなかったという、未来予測の難しさという観点から紹介されることが多い人。

ティム・ハーフォード『人は意外に合理的 新しい経済学で日常生活を読み解く』(原題 The Logic of Life)より引用。

マルサスにとってはいったいなにが間違っていて、人類にとってはなにが正しかったのだろう。それをとてつもなく創意に富む経済学者であるハーバード大学のマイケル・クレマーが最もエレガントに説明したのは、1993年になってのことだった。クレマーは豪胆にも、「紀元前100万年から1990年まで」を網羅する経済成長モデルを構築すると約束した。100万年にわたる人類の歴史を一つの方程式で示したのである。
クレマーのモデルは、簡単にいえば、「役に立つものを発明する可能性はどの原始人もほかの原始人と変わらない」というものである。アニメ『原始家族フリントストーン』の主人公、フレッド・フリントストーンが火、自動車、フリージャズなどを発明すると、その発明はだれでも使えるようになる。発明が普及するには多少は時間がかかるだろうが、100万年の歴史を前にして、だれがそんなことを気にするだろう。ここで基本となる洞察は、アイデアはだれでも使うことができるということだ。フレッドの石斧を奪えば、フレッドはもう石斧を使えなくなる。しかし、石斧をつくるというアイデアをフレッドから奪ったとしても、フレッドがその秘訣を忘れてしまうわけではない。つまり、人口が多ければ多いほど、発明の有用性は高まることになる。紀元前30万年にさかのぼると、フレッドのアイデアは100万人しか享受できなかった。今日では、自動車によって私たち60億人の生活が楽になる。
それが真実だとすると、クレマーの方程式が働き始める。「技術進歩の速度は、世界人口に比例する」——。卓越したアイデアが毎年人口10億人当たり一つ生み出されると仮定すると、紀元前30万年前にはホモ・エレクタスの総人口は30万人だったため、そうしたすばらしいアイデアは1000年ごとに生み出されていたことになる。産業革命が幕をあける1800年には、世界には10億人の人口がいたため、イノベーションの発現率は上昇し、驚くほどすばらしいアイデアが毎年一つ生まれており、1930年には、世界を一変させるアイデアは6ヶ月ごとに生まれていたということだ。現在、地球上には60億人の人間がいるため、2ヶ月ごとにこの種のアイデアが生み出されているはずである。そうしたアイデアには、複式簿記から輪作まで、あらゆるものが含まれうる。
これは話にならないほど極端に単純化されすぎたモデルである。データも完璧に合う。クレマーは人口の伸びだけを技術進歩の尺度にするように提案している。つまり人口が増加できるペースが速ければ速いほど、技術はよりしんぽしていなければならないということだ。有名なマルサスの仮定は、少なくとも1960年にピルが使われるようになるまでは、実にみごとにあてはまる。1960年の世界の人口と人口増加率は1920年の世界の人口、人口増加率は1800年の世界の約2倍であり、1800年の世界の人口、人口増加率は1500年の世界の約2倍であり——という具合に、きっちり石器時代にまで行く着くのだ。たしかに、紀元前100万年の人口がどうだったなどわかるわけがないが、考古学者と古生物学者は、クレマーと先史に関するクレマーの一次方程式モデルが登場するずっと前から、しっかりとした論拠と経験に基づいて独自の試算を行っていた。それはいま現在ある最善の試算であり、気落ちするぐらいクレマーのモデルに合致する。(P.333-335)

この本では、この理論を通じて、なぜオーストラリア大陸とタスマニア島が分離したときに、タスマニア島の原住民が生き残れなかったのかという理由に島が小さくなったことで、生きることができる人口の限界二部浸かり、イノベーションが引き起こせなくなったという仮設と、大航海時代以前のアメリカ大陸と同時期のユーラシア大陸の人口の違いが、その後の文明の技術革新の差を生み出したという仮説が展開されている。
逆に、地球の人口が限界にぶつかったときに、イノベーションの面では、成長の限界がやってくる推測ができるという、おもしろい議論。

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