2011年10月9日日曜日

「未来学」研究を始めるにあたって

軽い驚きと同時に、おもしろいものにぶつかった。
ゲーミフィケーションの分野で注目を浴びているゲームデザイナーのジェイン・マクゴニカルの著書「幸せな未来は「ゲーム」作る(原題:Reality is Broken)」(早川書房)の最初の「はじめに」で以下のような記述がある。

 カルフォルニア州パロアルトにある世界最初の未来シンクタンク、「インスティチュート・フォー・ザ・フューチャー(IFTF)の研究部長として、私はあるひとつの重要なトリックに気がつきました。未来を予測するためには、過去を振り返る必要があるのです。技術も文化も、そして気候も変化しますが、人類の基本的な欲求は依然として生存であり、家族の安泰であり、幸福で意味のある人生を送ることです。そのため、IFTFの私たちが好んで使うのは「未来を理解するには、見ようとしている未来までの長さの少なくとも二倍の過去を振り返られないといけない」という表現です。幸運にもゲームに関しては、それよりもずっと過去に遡ることができます。ゲームは何千年ものあいだ、人類の文明の基本的な部分を担ってきたのです。(P.19)

マクゴニカル氏は、ゲームデザイナーだが、彼女が未来シンクタンクに所属しているということにちょっとした衝撃を受けた。それで、早速、IFTFのサイトにアクセスをしてみた。
Institute of the Future (IFTF)

IFTFは、非営利の研究組織で、設立が1968年と古いのに驚かされた。
常々、アメリカでは、「未来学者」と自称する人たちがいることが気になっており、関連するカンファレンスが開かれることが多かった。コンピュータによる情報革命を予測した「第三の波」を書いたアルビン・トフラーも未来学者という肩書きであり、発明家であり人間とコンピュータの融合という過激な未来像を描いているレイ・カーツワイルも発明家という肩書き以外に、未来学者という肩書きで紹介されることが多い。
日本では、未来学者という肩書きを私が知るかぎり名乗っている人を知らない。
Wikipediaによると、「未来学」という学問分野らしきものは、60年代に成立したものらしい。

Wikipedaの未来学の項目より
現在のような学際的性格の未来学あるいは未来研究は、1960年代中盤の初期の未来学者、Olaf Helmer、Bertrand de Jouvenel、ガーボル・デーネシュ、Oliver Markley、Burt Nanus、Wendell Bell らによって確立された
未来学者に近いカテゴリーである、フューチャリストと呼ばれる人の中には、アーサー・C・クラークといった古典SF作家もこの中に分けられるということらしい。
そのため、この研究や研究機関は、これらの60年代から始まっており、すでに50年近い伝統がある。
それらの考え方の延長線上に、アップルが1988年に作り、iPhone 4Sが実現しようとしている21世紀の未来像のデモ映像といったものが重なってくるのだろう。
また、クリス・アンダーソンの「フリー」では、ニール・スティーブンソン「ダイヤモンド・エイジ」や、コリィ・ドクトロウ「マジック・キングダムで落ちぶれて」といったSFについて、著書の中で言及している。SFが、現実世界のビジネスコンセプトに影響を与える背景もそういうところにあるとわかる。
セカンドライフといったサービスも、ニール スティーヴンスン「スノウ・クラッシュ」から大きな影響を受けていることはよく知られている話で、SF的な現実が、ITの中で具現化するということがくり返されている。
もちろん、タブレット系や電子広告のときには常にトピックとして上げられる映画「マイノリティリポート」といったものも言うまでもないことだ。


日本では、こうしたSF的な部分は、ラノベ文化の中に吸収されてしまっており、「セカイ系」といった呼ばれ方をしている。それらの作品はおもしろいものも少なくないが、SF的なトリックはともかくとして、現実世界との乖離が大きくなっており、それらが直接的に製品に影響与えるような、未来学の基盤となる部分は弱い。

さて、このサイトをはじめる上で、ミッションは、一つには、未来学なるものが、どういう広がりを持っているのかを調べることに集中させていきたい。また、未来学は、単に無責任な未来予測を出すだけではなく、それをよりよい未来を作るために、実際の社会の中でのアクションに結びつけていくことが目的となっていることが多い。
中長期的な予測の上で、望ましい世界をどのようにして作っていくべきなのかが、論点となっているのだ。そのため、関連する文献を読み広げていき、それらの内容を紹介し、日本という難しい帰路に直面している国の中で、何ができるのかを、このサイトでは探っていく。
中心的なトピックは、ITや筆者が得意としているゲームといったインタラクティブメディアを扱っていくが、その周辺の情報も探る。


日々の情報のアップデートはこのブログを通じて行っていくが、同時に情報を集積していくことは「未来学研究所」のサイトを通じて行っていく。これらの情報はできるだけ多くの人と共有し、日本の中で何ができるのかということを議論していくための基盤作りにもつなげていく。
当面は筆者一人で、情報を蓄積していくが、関心のある方が出てきたら、参加できるような環境も整えていきたい。

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