ソーシャルゲームに、なぜ思わずはまってしまう人が出るのか、一方で、このタイプのゲームに、どこか満足感を得られないのかという心理に、手がかりとなる書籍を紹介する。
『まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか』ナシーム・ニコラス・タレブ、2008年
Nassim Nicholas Taleb, Fooled by Randomness, 2004
なぜ、ニュース(短い期間)は雑音がいっぱいで、一方、歴史(長い期間)は雑音がほとんど取り除かれている(ただし、間違った解釈がなされるという問題はある)のかが説明できる。また、私が新聞をめったに読まない(死亡記事は別だ)のはなぜか、市場について無駄話をしないのはなぜか、それに、トレーディング・ルームにいるときはトレーダーではなく数学者や業務職と仲良くするのはなぜか、説明できる。毎朝『ウォールストリート・ジャーナル』を読むより月曜日に『ニューヨーカー』を読む方がいいのはなぜか(ここで言っているのは頻度の話だ。両者の知的水準がものすごく違う点はとりあえず脇に置いておく)も説明できる。
そして、偶然に気をとられてすぎた人たちが、何度も苦しんだ挙句、精神的に疲れてしまって燃え尽きになるのかはなぜかもわかる。なんと言おうと、苦しみは喜びで相殺できない(一部の心理学者によると、平均的な損失で人が感じる苦しみは、同じだけの利益で人が感じる喜びの2.5倍の衝撃力を持つ)。情緒面では赤字が出るのだ。
そういうわけで、ひっきりなしに株価をチェックする歯医者さんはとても苦しんだりとても喜んだりするけれど、この二つが相殺しあってゼロにはなってくれない。さらに、白衣を着た人たちが調べたところでは、この種の苦しみは神経系にひどい影響を及ぼす(よく起きる症状:高血圧。まれに起きる症状:ストレスによ記憶障害、脳の柔軟性の低下、脳障害)。私の知っているかぎり、トレーダーが燃え尽きた場合の症状はまだ厳密に調べられてはいない。でも、どうにもできないランダム性に毎日あんなに振り回されていたら、間違いなく心理的な影響を受けるだろう。(ガンにかかる影響もまだ調べられていない)。経済学者たちは、プラスやマイナスのショックについて、長いあいだちゃんとわからないままやってきた。彼らは、プラスのショックとマイナスのショックが及ぼす影響が、生物学的にも影響の強さの点でも異なっていることがわからなかった。儲けた後での判断と、損をした後での判断は大きく異なっているのだ。(P.93-94)
この議論は、タレブが同じパフォーマンスを出す歯医者の投資家と、月に1度ぐらいしかチェックしない歯医者がいるとして、一日中株価のチェックをし続けているような歯医者は、結局のところ、仮に儲かったとしても、精神的な損失が埋め合わされないほどに損を被るということを指摘している。
その根拠として、「利益と損失に対する脳の反応の非対称性」の心理学研究を上げている。巻末の付注に、3つ研究や研究者の著作が紹介されている。
そのため、投資家でもあるタレブは、できるだけ個々のノイズに振り回されないようにするために、新聞を読まないようにしているというものだ。
この議論は、未だにしっかりと解明されているとは言えない、「オンラインゲーム」や「ソーシャルゲーム」になぜ熱中してしまうのかといった心理と深く関係していると考えられる。
熱中している状態は、心理的に不安な状態になってしまうことが少なくない。眠っている間に敵に攻め込まれているのではないかというような形で、不安な心理を抱えて、必ずしも楽しいと感じないで熱中した経験を持っている人はいるのではないだろうか。
心理的な損失と報酬のバランスが会わないからこそ、その収支を合わせようとして、アイテムに課金してしまう。負けが込んでいるにもかかわらず、パチンコ台にさらにお金をつぎ込んでしまうという心理と似ていると、私自身は理解している。
ソーシャルゲームが既存の家庭用ゲームのユーザーから、嫌われる理由もその辺にあるのだろうと思う。完結した商品は、ストレスを与えられてもパッケージとして完結しているために、ストレスが予測できる安心感が存在するが、ソーシャルゲームの場合は、他のユーザーが関わるために、ユーザーがコントロールできないランダム性が高いため、高いストレスを受ける可能性があるからだ。
株式市場のようなところで起きる動きは、コンピュータ関連での技術革新が先行して起きることが多い。現金を扱っているために、間違いが許されず、また、収益を得るために正確な情報を持ちたいという強力な動機が参加者にあるからだ。
その技術や仕組みが、コモディティ化して、はるかに安価に提供できるようになったのが、ソーシャルゲームの一つの姿であるとも見ている。
人間の動きやパターンは、今後も様々な方法で分析する方法が登場してくるだろう。
Gehring, W. J., & Willoughby, A. R. (2002). The medial frontal cortex and the rapid processing of monetary gains and losses. Science, 295, 2279-2282.
Science誌に発表された脳科学の論文で、公開されているもの。ギャンブルを行った場合に脳がどのように反応するのかを計測し、脳の前頭前野が、何かを得るときよりも、損失するときの方が2.5倍反応することを上げている。ミシガン大学の心理学研究者。
Anxiety, Depression, and Emotion (Series in Affective Science) [Kindle Edition]
Richard J. Davidson
ウィスコンシン大学の心理学研究者。脳の非対称性を早い時期から議論し始めた人のよう。日本での翻訳文献はない。脳波計を使って仏教瞑想が、効果があるといった研究もしていたよう。
タレブはの参照元はこの書籍と思われる。訳すと「不安、憂鬱、感情」。
一般的な解説書として、ダニエル・ゴールドマンの「なぜ人は破壊的な感情を持つのか」も上げている。EQなどを考えだし、日本でも知られているゴールドマンが、ダライ・ラマと行った議論を収録した書籍。
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